yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

人譽幻談 幻の猫

【人譽幻談 幻の猫】伊藤人譽(いとうひとよ) 龜鳴屋 ★★★★ 2005.1.13 限定514部

 

 気の利きまくった幻談八篇。聞いたことがあるようでなかった“幻談”という何とも魅力的な分類名と限定部数という触れ込みに興味を惹かれ、入手した一冊。

 どの一篇をとってみても、ちょっとばかりの可笑しみと奇妙さと恐さが、過不足なく絶妙な配置で漂っていた。この本には一番古いもので、60年近くも前の作品が収録されている。なかなかに注目をされず、とんでもなく遅筆な氏。しかしあとがきで氏が匂わせていた、遅筆だけれどもこれぞという確かなものを書いてきているという自信が、よくよく納得出来た。

 中では「シメシロ」が断トツで、次に「乳鋲」が良かった。「シメシロ」は、タイトル通りのテーマがストーリィをどすっと突貫している率直さと、落ちが見えながらもちっとも損なわれない奇妙な設定に、唸らされた。「乳鋲」は、しばしば出てくるアトリエという言葉に適度な違和感があって(個人的に)メタな面白味があったことと、矢張りストーリィの不思議さ、中華包丁でぶち切って伸(の)したような味わいの結末が良かった。