yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

闇のなかの黒い馬

【闇のなかの黒い馬】埴谷雄高 河出書房新社 ★★★★ 2005.1.18 

第6回谷崎潤一郎賞受賞作 

 

 ここ数年で一番読みたかった本。小説らしいがエッセイのようでも。副題に夢についての九つの短篇とあり、そのものをそのものとしか認識出来ない白昼の罠を嫌い(?)、夢の中で普段見ようとして見えないものや或る種の真理にダイレクトに到達しようという試みが展開される。それは例えば、暗黒、虚無、宇宙の果て、《ヘレン・ケラーの夢》など。それらをひっくるめて氏は、結局主題は「存在」だとあとがきで言い切っているけれど、読んでいる最中に「存在」について思うことはなかった。そんなことより、前半4篇に途方もなくわくわくさせられた。これら4編は、夢の中で、というのは同じくして全て異なる方法論でどれも《闇の果て》を追求していく。その手段を書き並べると、黒馬、無限遠の光斑、無限落下、追われる夢、とそのどれもが手段として尤もらしく且つ魅力的なのだ。余りに魅力的だったので、残り5篇も独自の方法で一心に《闇の果て》を目指すのだろう(正9角形の頂点が中心に向かって同時に落下してくるイメージが浮かんだ)、と独り合点してこの本の構造美に勝手に只管な感動を抱いていたら……大いに期待を外された。

 寝る前に1,2篇ずつという風に読んでいたら、変な夢ばかり見た。がもう覚えていない。

 修飾語句が矢鱈に長かったりどこに係ってくるのか一読して分からなかったり、敢えていってみれば、とか、言い換えると、とあるとさっぱり理解出来ない言葉に変換される等の癖のある文章だったが、一方で新鮮ではあった。