yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

犬が星見た ロシア旅行

犬が星見た ロシア旅行】武田百合子 中公文庫 ★★★★ 2005.3.4 第31回読売文学賞受賞作

 

 川上弘美が確か「あるようなないような」の中で武田氏の「富士日記」を推していたのをうけて、「富士日記」より先に新進古書店にて見つけた同氏のこの作品を読んでみることにした。
 日記というものは基本的に他人に読ませようとして書くものではないはずだという考えから、出版にあたっては対外的な多少なりの手入れがあったものと勝手に想像してしまうが、本書ではなかなかにざっくりとして好悪の感情の露骨さを失っていない、日記らしい日記だった。それ故、嫌な気分になる箇所もある。例えば、女性は女性に厳しく、数少ない好感の持てる女性にしても外見描写からはストレートな美人ではないことが分かる、といったところ。
 旅行記としては、前半のロシア西半分にいるときが面白く読めた。物哀しい土地の雰囲気が伝わってくる。それに比して映える銭高老人の奇矯。それもまた物哀しい。
 裏表紙のあらすじを読むと本書の落下点が分かってしまうのがいただけない。それでも、分かっていても、胸に支(つか)えるあとがき。