yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

被害者を探せ!

【被害者を探せ!】パット・マガー 中野圭二訳 創元推理文庫 ★★★ 2005.5.14

 

 タイトル通り犯人ではなく被害者(誰が殺されたか)を探す異色な設定のミステリ。設定は確かに面白いが、作品構造は古風でああ“本格”だといった感じがする。設定とは別にもう一つ面白い点があり、それは、被害者は誰であっても意外ではありないが、当てられもしないというところ。均等な怪しさが演出されているのだ。

 しかし良く描けるなあと思うのは、<家事改善協会>という一見ぱっとしない慈善団体(本当は営利団体のようだが)の立ち上げから成長、そして内部に生じ徐々に大きくなる軋み(きしみ)の過程だ。どういったところから<家善協>というネタを着想したのか、<家善協>の内情の変遷は想像力のみの産物なのか、見当が付かない。

 語り手の公平な視点について思うところがあった。最近のミステリは、語り手の視点が偏狭である場合が多いように思う。一個人の世界観が二人分くらいに広がっただけで演出されるカタルシスなんて、何てちっぽけなのだろうと。