yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

舞え舞え断崖

【舞え舞え断崖】赤江瀑 講談社文庫 ★★★★ 2005.8.16 絶版

 

 日本語が流麗だなあと思う。特に表題作「舞え舞え断崖」とイントロの一篇「女形の橋」が良かった。どちらも日本語にしか不可能かと思われる、つまりここでは表音のかなと表意の漢字を上手く使っての、人心や土地に住まう薄暗がりの妖しみを演出している。フィクションとは思えぬ“芥部”や“毛垣”といった土地を、今後旅先に探してしまうことだろう。

 「黒馬の翼に乗りて」では、伝書鳩での往復書簡が詩的。万葉言葉による本来ストレートな文面が、私のような現代小説読みにはワンクッションおかれたものになるけれど、意味が解かれた瞬間に走る情念の激たること。

 「悪戯みち」では、虫の無痛無感なイメージが最後人に適用されるその対比にぞっとする。一種の怪談で、夏に読むのが良かろう。