【太郎坊 他三篇】幸田露伴 岩波文庫 ★★★★ 2007.11.4
表題の一篇が抜群に良かった。おだやかな暮らしの描写。一方で、どのように現在に至っていようと、人それぞれそこまでの過去がある。ここで開陳される主人の過去は、おそらく細君を気遣って敢えて言わずにいた一挿話。酒の助けもあったかも知れないが(その酒の呑み方、やめ方も完璧だ)、潔く過去のものとして笑いに包んでしまう主人の人の出来に感服。さらに、まだまだ湿り気のある話さえ必ず受け止めてくれるだろうとの信頼でつながる夫婦の絆も、素晴らしい。斜に見れば何もかも出来過ぎなのだが、素直に余情に浸(ひた)れる名篇だと思う。
「雪の夜」。博打の魔手がどこまで平太の中に侵入したのか。その後の平太の人生の転々を愚推する。
「不安」。探偵小説的談義を少々含む。
「付焼刃」。鬼嫁譚、或いは尻敷かれ亭主譚。家(うち)と外では、事情が違う。
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クラムボンに「おだやかな暮らし」という曲がある(本当はカバー曲)。好(hao)。