yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

異国の女に捧げる散文

【異国の女(ひと)に捧げる散文】ジュリアン・グラック 天沢退二郎訳 黒田アキ・絵 思潮社 ★★★★ 2007.12.1

 

 本屋で時々見とめて、一、二篇をそっと盗み読みすること繰り返していたが、遂に買ってしまった。何故というと、ある友人に以前これを買った顛末を実物を見せながら話したことがあったのだが、その本が持つわけの分からなさとこんなものに定価以上の金を出した行為を、彼は私の(彼から見れば特殊な)嗜好を示す最好例としてことあるごとに引き合いに出し、そしてまた昨夜も引き合いに出されたことで、不意に天沢退二郎のことを思い出したためである。

 思うに、この頃は、"前置き"がやけについて回る本ばかり揃う。

 本作は恋愛詩で、私家本を原本とする。"きみ"に呼びかける言葉は私的痛切に満ち、冒頭ほんの数行を追うばかりのところで、もう自然と、息を潜めて隠れ聴き、盗み見るように相対してしまう。

 例えば河原のキャンプでする焚き火――。

 夕方、バーベキューでもしてようやく人心地した頃、陽も落ち、焚き火を始める。その世話に一生懸命かかり、甲斐あって火勢が十分に落ち着きを見せる頃、不意にあなたは深い闇夜に囲まれているのを知るだろう。闇に背に、燠火の温もりを感じるだろう。薪の隙間から覗き見る燠。音もなく揺らめくオレンジ色は、不安定だけれど簡単には消えない芯の強い想い。稚気と共に一つつまんで夜風に晒すような扱いを控えさせる存在。きっとあなたは無言のまま新たな薪をそっとその上にくべてやる――そのオレンジにも勝るとも劣らぬ、優しく、温かで、柔らかな視線を以って。