yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

大つごもり・十三夜 他五篇

【大つごもり・十三夜 他五篇】樋口一葉 岩波文庫 ★★★ 2008.6.20

 

 表題の有名な2篇は、一葉の作品のなかでもどうも言葉遣いが特に難解に感じられ、解説の助けを借りて、内容のおおよそを掴むが精々、堪能できずじまい。しかし、以下の2篇は良かった。

 「ゆく雲」。距離が遠のき、時流れれば。稚い人間関係は、ゆく雲と同じで、いつか儚く千切れ、消散する。まずあった、仄かな好意と清純、そして義。これも、浮き世の食い物か。

 「この子」。私などは、よその幼な子と会釈を交わしたり、わずかに交流するだけでも、心の雲霧(くもきり)が晴れ上がるような感慨を得る者だが。子は宝と言う。私は既にもう幼な子でないが、聞いた話ばかり頻りと話し掛ける両親が健在で、彼らを包み込む雲霧の厚さ(私のものとは比較にならぬ)を思い知りながら、風神のような力もなかろうし、だがせめてつむじ風を起こす童子ばかりにはなれるやも――喝、と自ら任じてみて、その決意どこまで続くやら。