yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

目まいのする散歩

【目まいのする散歩】武田泰淳 中公文庫 ★★★★ 2008.8.8 第29回野間文芸賞受賞作

 

 「富士日記)()(下)」や「犬が星見た」と併読するとより楽しめる(んじゃないかと思う)一冊。「富士日記」では、極偶にしか、一人称でその顔を出さない泰淳氏だが、どっこいエッセイにおけるユーモアのセンスは、百合子夫人の備える天性のそれと、良い勝負。

 「目まいのする散歩」・「笑い男の散歩」の冒頭二篇から、まずは思索色を全面に出し、さすが純文学者の散歩は一味違うなあ、と襟を正すも、「鬼姫の散歩」まで読み進めば、このエッセイの裏事情が白地(あからさま)になって、稀有なエッセイがここに生まれた小確幸をここに喜ぶものである。

 ラスト二篇「船の散歩」・「安全な散歩?」は、ボーナストラックという感じ。「犬が星見た」に収録されても良かったかな。