【その言葉を】奥泉光 集英社文庫 ★★★★ 2008.10.27 絶版
奥泉光の初の小説本(その前に学術翻訳本を出したことがあるとのこと)ということで、いち早く読みたく思った時点で、とっくのとうに絶版化していて、新刊本屋でも見かけることなく、長らく古本屋を巡って、やっと手に入れた一冊。
「その言葉を」と「滝」の二篇が収録されているが、併せて高々二百頁程の短篇(「滝」は鉛のように重く中篇的)に、見事にその後の氏の著作の、原型というか原風景的なアイテムを、たっぷりと湛えている。何か起きるぞ、何が起きるの、という“その時”を設定、演出し、“その時”を読者に黒々と強く意識させながら、文字の沼で葦を掻き分けるように読み進む感じ、醍醐味。
奥泉氏入門の最適書かと思われるが、流通していないのは残念。