【朝鮮短篇小説選(下)】大村益夫・長璋吉・三枝壽勝編訳 岩波文庫 ★★★ 2009.1.28
上下巻同時に入手して、ある時間違えて携えていったのが下巻だったので、下巻から読むことになった。特に支障はないけれど、自分にしてはちょっと珍しい出来事。
朝鮮半島出身者による近代文学の短篇精選集なのだが、何となく厳格な性格の人が多そう(上下関係の厳しいと言われる儒教文化のイメージが先行しているのだと思う)なので、畏まった態度で頁を繰っていたが、大らかで純朴、農耕的でほくほくとした小説が多かった。読み始めの時の態度にお誂え向きだったのは、「翼」だけである。「翼」は倉橋由美子氏の初期の金属的な雰囲気の小説を思い出させる。これを除けば、童話を読むような柔らかさでゆったりと臨むと良さそう。ありふれた景色であるかもしれないが、秀逸なのは末尾の「習作室にて」。大事なこと、それを知るのはいつも遅過ぎる。