yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

玉蟲遁走曲

【玉蟲遁走曲】塚本邦雄 白水社 ★★★★ 2009.2.3 絶版

 

 昨年末より塚本邦雄氏が気になって仕方なくなっていた。主な理由は2点、旧字旧仮名遣いに圧倒されてみたい、そして、詩人の書く小説・エッセイに名品が多いらしい(という噂)、というところ。氏のほとんどの著作は絶版なので、珍しく図書館を利用して、遂に一冊読むことができた。

 本作は、クラシック、シャンソン、歌謡曲など古今の楽曲についての、(私的ゆえに)放縦な評論になっている。

 文字遣いへの興味があったが、書いている内容以前の、一々の活字(本書は明らかに活版印刷の書である)に注目していると、全く内容が頭に入ってこないので、その内文字そのものはBGMのように強いて意識の外縁に追いやって読むようにした。幸い、これまでの古い版の岩波文庫読みの経験が活かされ、滑らかに読めた。私的読書歴からすると、丁度良い時期のように思える。

 戦争経験者だからだと解釈したが、大変勉強になることに、氏は、陶酔や忘我の状態を危険視し、注意慎重な態度を見事に崩さない。偏愛的な筆であっても、どこか冷めていて、詩人特有の彼方を視る目を持っている。

 カルミナ・ブラーナに大いに興味がわく。オルフのそれのCDを是非とも入手したい。