yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

朝鮮短篇小説選(上)

【朝鮮短篇小説選(上)】大村益夫・長璋吉・三枝壽勝編訳 岩波文庫 ★★★★ 2009.3.6

 

 1920〜40年代に書かれた朝鮮小説。故郷の喪失(日本軍の侵略が原因)や貧困が、多く描かれる。下巻にみられた素朴な農村譚のような作品はなく、せめて筆は軽くあるものでも、ずっと厳しく悲惨で、救いのない世界が果ても見えず展開している作品が主。不況の影響で、この頃は小林多喜二作品に注目が集まっているようだが、小林作品と全く同時代(特に1920年代)の小説を収めたこの本を読むと、まだ読み知らぬ小林作品の雰囲気が想像されるとともに、こちらの朝鮮の小説についても注目が集まっても良さそうに思う。

 「民村」、「旱鬼」、「地下村」が特に胸に迫る。眉間に皺が寄る。旱鬼の前には、泣くこともできない。時代の所為にするな、という言いは現在良く耳にするが、時代の所為でなければこの不幸は何の所為なのか、幸も不幸も自分自身の姿勢一つだとはどうしても割り切れぬ時代もあろう。そういう時代には、(使命感を以て)活動に勤しむ宗教者が目立つことも一理。

 30歳台で亡くなった著者が多いことも、何かと考えさせられる。