【吾輩は猫である】夏目漱石 岩波文庫 ★★★★★ 2008.12.17
漱石作品は中学・高校生の時に「坊っちゃん」を読んだきりであったが、森鴎外や奥泉光などの作品を読むうちに、そろそろ読み始める頃合のように思われてきて、まずはこれを手にした。
有名な冒頭文から推して、ひたすら猫の一人称視点から展開される話かと思いきや、章を重ねるに連れ、段々猫の気配は消えていく。さすがに終章は撚り戻すが。登場人物が好き勝手に動くので、筋と呼べるような筋もなく、そのうち雑談の集大成本のような趣になっていくのは意外で大変面白かった。これを読むと、例えば、蕎麦の食べ方の話、世界一長い英単語(これは高校の英語の先生が言っていた。「吾輩〜」が出典だったとは。)、西洋式を闇雲に崇めてもしかたないという話、そうさなとの相槌しか持たない人の話、対局時の待ったの連呼、フィンガーボールの失敗の話、お上の命令だからこそ従えぬ時分だという話、などなど、人々の口吻に上る雑談のテーマが100年も前から変わっていないことに驚かされ、また、このような雑談を今後私自身が口にするのがこっ恥ずかしくなる効能がある。例えば、かた麺の話などがそうだ。
次の漱石作品は「こころ」を読む予定。