【マイナス・ゼロ】広瀬正 集英社文庫 ★★★★★ 2008.12.25
読み終えて3ヶ月も経ってしまった。
タイムマシン物のSF。新装版として現在出回っている和田誠の装幀が大層似つかわしい、飄々としたテンポで展開する軽快な小説。話が進むに連れ、内容がかなりこんがらかってくるものの、頭の中が曇るようなことはなくて、ただただ面白おかしい気分の内に読み終える。
工学的な専門用語や、時代と共に廃れていって今ではそう知る人もいないような言葉が、(時間)遡行先の雰囲気出しに、ためらいもなく使われている。多分、作者が過去の一時代の空気・風俗をあまりにも一生懸命調べたために、掘り起こされた情報を削るに忍びなく、あれこれ書き込ませてもらおうという心理が働いたものと想像する。そういう用語をこちらで調べていくと、少なからず楽しく、知識も増える。個人的にはまた鳩居堂や明治屋が出てきたのが嬉しい。明治屋は、要は、舶来物の食品取扱いで、世に名をなした会社であるらしい。確かに、ある時、私が京都の明治屋に行った時に、配布していた「嗜好」なる小冊子を貰い、読んでみたところ、その内容からして、随分と歴史あるスーパーらしいぞ、という感触を得ていた……。「嗜好」は現在休刊中とのこと。
その他。
・「あたし、いくつに見える?」とは本当に厄介な質問である。→p.57
・ギューテンはぎゅうてんのことなら、お好み焼き(に似たもの)のことらしい。→p.204
・水一滴の体積は1/16ccだそう。→p.233
・蟹の音読みはカイである。→p.266-267
星新一氏の解説に、タイムマシン物の有名作が幾つか紹介されたので、ゆっくり探してみたい。
新保博久氏は、広瀬正氏のことを、天藤真氏とセットで思い出すとか、どこかで書いていた。大方、創元推理文庫の天藤真推理小説全集の何巻目かの解説だったと思う。