yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

最暗黒の東京

【最暗黒の東京】松原岩五郎 岩波文庫 ★★★ 2009.4.27

 

 明治中期の東京貧民街潜入ルポ。貧乏譚が好きなので手に取った。この心裡、所謂上から目線の快を催すためであろうか。貧乏が窮まって悲惨・凄惨ただ一つの体を示すようになると、さすがにフィクションでもノンフィクションでも呑気に相対することはできなくなるが、本書に見られる人々は自らを省み人生の一計を案じる時間などあり得べくもなくひたすらに日銭の確保に奔走し、なりふり構わぬ様子、この中にあって悲惨・凄惨の感の占める余地なし。僅かに老車夫のレポにつらいものあるが、その老人とて車夫としての身が身を扶けているのも事実。

 2および3章の木賃宿に関するレポが最も面白く読めた。体験的取材を始めて間もないからであろうが、筆者のとまどいや被圧倒感が"漢語過剰"の文体に存分にまとわりついていて、読者は当時当現場の雰囲気と筆者を追体験できる。

 

 

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 松原岩五郎は、ヌタクカムウシュペを大雪山と命名したその人。山容が似ていることから、故山大山に因んでその名を採ったという。(p.194:解説中)