yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

迷宮

【迷宮】大西巨人 光文社文庫 ★★★ 2009.9.9

 

 遅々として読まされ、しかし退屈でない小説。文体や言語感覚が特殊な作家であるようだ(たった一語なのでそれを示す適切な例とは思わないが、アメリカ合州国、と書いていたりする)。

 ミステリというよりは、謎物語(謎を取り扱った物語)だろう。ことの真相は、簡単に思い至れるが、そこに重点が置かれているわけではない。しかし、人生と死に関する深い問題提起にまで至っているかと言われると、私にはそこまでのものを感じられなかった。むしろ、古今の作家、作品や、人類史の中でひょっこり兀然と現れたり、地道に培われてきた哲学・思想等が、わずか300頁足らずの本作中、贅沢に鏤められていて、調べものが増えたり、次回手に取る本に影響したり、見てみたい映画がずらずらと芋づる式に知れるところに、魅力がある。