yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

鏡のなかの鏡——迷宮

【鏡のなかの鏡——迷宮】ミヒャエル・エンデ 丘沢静也訳 岩波現代文庫 ★★★ 2010.2.28

 

 キーワード過多。説明もされず、さらりと一度、二度と出てきては、また違うキーワードの波に呑まれて行く。全30章、キーワード群の部分集合が各章を紡いでいる。読者の脳中に、キーワードの面影が多重に色めき立ち始める後半になって、味わいが醸し出される。あくまで順読した場合の話だ。この迷宮は、読者を要請する以前、そもそもの始めから色めき立っている。

 16章について特に。傘を回せば、世界が回る……というほどには、あなたや私を始めとして、人一人の存在と世界の間には粘性摩擦力は働かないように、自分が世界の中心でなくなる時が来る。これが青年期と思う。どうにもならぬーーただ世の流れに流されている、あるいは取り残されているーー感覚に包まれる。これに類する決定的なイメージが私に生まれたのは、大学時代であった。以下、記しておく。雨滴としての生を享けて、細い山水(やまみず)はほどなく谷沢を滑るように下り、屈曲がありながらも進みは安定した河川時代を経て、さて河口に辿り着く。眼前に広がる海は、あまりに広く、乗るべき流れも定かでない。乗るべき流れ、とは。気付けば、流れに乗ってくるだけで、自分の意志で進んだことなどあっただろうか。川の流れは止まず、いやでも海に押し出される。海へ出だす準備期間は、一体いつの間に過ぎ去ったのか。飛び出して行く同輩の、ついぞ見たことのなかった自信と勇気。河口脇の渦中、逡巡・躊躇に淀む我……。