yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

2005-01-01から1年間の記事一覧

黄色い部屋の謎

【黄色い部屋の謎】ガストン・ルルー 宮崎嶺雄訳 創元推理文庫 ★★★★ 2005.12.30 名作古典ミステリということで読んでみた。密室ものとして事前に聞き知っていた。 冒頭から贅沢で最大の謎掛け(密室)があり、いきなり引き込まれる。これまで幾つかの密室も…

車輪の下

【車輪の下】ヘルマン・ヘッセ 実吉捷郎訳 岩波文庫 ★★★★★ 2005.12.18 何故今手に取ってしまったのか、全般に堪える作品だった。そして、全くこう書くと莫迦にされそうだが、あなたは私か、と告白したくなるようなギイベンラアトへの親情と、不気味に見透か…

幻詩狩り

【幻詩狩り】川又千秋 中公文庫 ★★★★★ 2005.12.15 第5回日本SF大賞受賞作 絶版 期待を裏切らぬ面白さだった。改行が多過ぎる気もするが、それも物語の疾走感を手伝っていたかもしれない。 言葉の知られざる機能、というテーマ。それは咒文に近いが、咒文は往…

A感覚とV感覚

【A感覚とV感覚】稲垣足穂 河出文庫 ★★ 2005.12.13 某所から情報を得、何となくセンセーショナルだったので読んでみた。後半のエッセイのような小説のような6篇が難解で、それこそ天上に飛翔するような特上の想像力のアクロバットが必要だったが、A感覚に…

ポオ小説全集1

【ポオ小説全集1】エドガー・アラン・ポオ 阿部知二他訳 創元推理文庫 ★★★ 2005.12.10 新潮文庫の3冊を読み終わって後、やっぱり選集(ベスト盤)という形態が嫌で(一通り読んだとは言えない感じが居心地悪い)、自然こちらの小説全集に手を出すことになっ…

斜め屋敷の犯罪

【斜め屋敷の犯罪】島田荘司 講談社文庫 ★★★★ 2005.12.1 斜めであることを多重に活かしたトリック群。もう一つの“流氷館”の方を先に知っていたが、思えばあちらも、一つの仕掛けを最大限に活かした作品だったように思う。敢えて同名の館にした意味も少しは分…

夢の通い路

【夢の通い路】倉橋由美子 講談社文庫 ★★★ 2005.11.25 桂子さんに既視感があるなと思ったら、やはり「よもつひらさか往還」でも桂子さんはいた。同一人物のようでもあり、そうでない感じも受ける。その曖昧さは村上春樹氏の“ぼく”のような面白さがあるけれど…

薔薇幻視

【中井英夫全集[12] 薔薇幻視】中井英夫 創元ライブラリ ★★★★ 2005.11.24 薔薇ならぬ薔薇の旅と、香りへの旅から成る言わば精神紀行記。非常に流麗な文体は、冷やっこくて這うように香う。特に章の切れの文。余白に儚く溶ける。 私なりに理解したところに…

阿部一族 他二篇

【阿部一族 他二篇】森鴎外 岩波文庫 ★★★★ 2005.11.18 武士ものとも言うべき三篇。情けと義、忠、生き死に、名と恥、信念の全う。そういったテーマが強烈に鏤(ちりば)められている。「興津弥五右衛門の遺書」によって、当時の殉死の正当性が描かれ、続いて…

あるようなないような

【あるようなないような】川上弘美 中公文庫 ★★★★ 2005.11.18 再読 一度読んだ個体をあろうことか失くしてしまったので(全くの失態だ)、100円で見つけてきた当個体を読んで、長らく隙間の出来ていた本棚の指定席に納めることが出来わけだった。本棚には読…

不可能犯罪捜査課

【カー短編全集1 不可能犯罪捜査課】ディクスン・カー 宇野利泰訳 創元推理文庫 ★★★ 2005.11.18 10篇を収める。翻訳物で短篇ミステリというどちらかと言えば二重に苦手な作品だが、1篇当たりのページ数が短いので何とか手に取ってみた。 「新透明人間」は、…

光車よ、まわれ!

【光車(ひかりぐるま)よ、まわれ!】天沢退二郎 ブッキング ★★★★★ 2005.11.11 天沢氏初の長篇作品。私が氏の長篇を読むのも初だ。 先に読んだ「闇の中のオレンジ」と大いに重複する道具立てが気にはなるものの、矢張り長篇ならではのしっかり筋の通ったス…

バルーン・タウンの殺人

【バルーン・タウンの殺人】松尾由美 創元推理文庫 ★★★ 2005.11.9 入手しづらいハヤカワ文庫版があったが、こちらの版元で再版されて俄然読む気になった一冊(きれいな状態のハヤカワ文庫版はそうそう見つからなかったのだった)。 人工子宮利用が普通になっ…

山田風太郎ミステリー傑作選② 十三角関係 <名探偵篇>

【山田風太郎ミステリー傑作選② 十三角関係 <名探偵篇>】山田風太郎 光文社文庫 ★★★★ 2005.11.4 堕胎医でちんばで名探偵の荊木歓喜(いばらぎかんき)先生の活躍9篇。気ままな酒呑みで飄々とした性格、他人様の悪の詮索を嫌い、基本的に事件に積極的にタッチ…

ゆっくりさよならをとなえる

【ゆっくりさよならをとなえる】川上弘美 新潮文庫 ★★★★★ 2005.10.29 3ページほどの掌エッセイがたんまり。しかもどれも粒より。雑文書き(?)の一人として、毎回このような文章が書けたら良いなと思うけれど。まあそう思わせるのが、巷間に溢れる私を含め…

虹の獄、桜の獄

【虹の獄、桜の獄】竹本健治 建石修志・画 河出書房新社 ★★★ 2005.10.28 「七色の犯罪のための絵本」に一篇の書き下ろし「しあわせな死の桜」を加えて単行本化した今作。前者は既に「閉じ箱」所収のものとして読んでいる。“赤”と“ラピスラズリ”が好み(cf.独…

家畜人ヤプー 第二巻

【家畜人ヤプー 第二巻】沼正三 幻冬社アウトロー文庫 ★★★ 2005.10.15 およそ一年振りに読み進む。第二巻。 ユートピア小説/反ユートピア小説というものが、少し分かってきたように思う。つまり、ユートピア/反ユートピアという“世界”を打ち立てたというこ…

脳男

【脳男】首藤瓜於 講談社文庫 ★★★★ 2005.10.9 第46回江戸川乱歩賞受賞作 なんとか男という言葉に多少思うところがあるので、読んでみた一冊。 脳男という稀代の犯罪者との死闘を描く作品かと想像していたら、彼は実はヒーローであった。感覚から脳波まで自律…

闇の中のオレンジ

【闇の中のオレンジ】天沢退二郎 ブッキング ★★★★ 2005.10.9 怪しい童話。子供(子供とは?)が読んだら、住む世界が悉く暗色がかって見えるようになるかもしれない。明色は原色のみだけが浮いたように残って、淡いものは目に映らなくなるだろう。 掉尾の表…

弁護側の証人

【弁護側の証人】小泉喜美子 集英社文庫 ★★★ 2005.10.6 絶版 名作との呼び声高いミステリ。序章と終章の合わせ鏡的で皮肉な趣向のきれいな構造の作品だったが、期待していたほどには面白くなかった。ただ、先に読んだ「時の過ぎゆくままに」でも大いに感じら…

グラン・モーヌ

【グラン・モーヌ】アラン=フルニエ 天沢退二郎訳 岩波文庫 ★★★★ 2005.10.2 天沢退二郎マイブウムが唐突にやって来て、まだ見ぬ(読まぬ)「オレンジ党」シリーズへの想いを膨らましているところに、訳者として氏の名を見つけたので読んでみた一冊。 陳腐な…

ワーニャおじさん

【ワーニャおじさん】チェーホフ 小野理子訳 岩波文庫 ★★★ 2005.9.27 こういう本は、(本の厚みが)薄いから、それに元々安いけれど新進古書店で100円か150円くらいで更に安くあったのを偶々見つけて、それも状態も良いものだったから買うわけで、タイトルや…

ことばの食卓

【ことばの食卓】武田百合子 ちくま文庫 ★★★★ 2005.9.26 武田百合子さん(さん付けは「日日雑記」解説の影響)の日記でないエッセイ。 扉の一篇「枇杷」は、まさに完成し切った一篇だと思う。あまりにも完成し切っているので、次の一篇への取り掛かり方が見…

猫は知っていた

【猫は知っていた】仁木悦子 講談社文庫 ★★★ 2005.9.23 第3回江戸川乱歩賞受賞作 仁木悦子初読み。ほんわかとぼけた田園風味の天藤真的な作風かと思いきや、思いの外“本格”ミステリだった。ところがトリック等の説明を読んでいてもいまいち脳内で再現されず…

転生

【転生】貫井徳郎 幻冬社文庫 ★★★★ 2005.9.20 心臓移植手術を軸に据えた、所謂社会派的な王道のミステリー(ミステリではない)だった。謎はへび玉のように予想も出来ない方向に伸び膨らむ。 手術を受けた主人公の体調の回復に合わせて、物語展開が実に丁寧…

悪魔が来りて笛を吹く

【悪魔が来りて笛を吹く】横溝正史 角川文庫 ★★★★ 2005.9.17 金田一耕助ファイルシリーズ 一つ前に読んだ「死体が冷めないうちに」を受けて、装丁家繋がりで読んだ。 このシリーズを読むのは四冊目だが、今回は当面の事件のルーツを探るべく、積極的に遠方に…

死体の冷めないうちに

【死体の冷めないうちに】芦辺拓 双葉文庫 ★★★ 2005.9.13 自治体警察局という組織が存在する現実に肉薄したパラレルワールドを舞台にした連作短篇ミステリ。山田正紀氏の「女囮捜査官」シリーズや貫井徳郎氏の「症候群」シリーズなどを髣髴とさせる。 選挙直…

幻談・観画談 他三篇

【幻談・観画談 他三篇】幸田露伴 岩波文庫 ★★★ 2005.9.10 幻談の名に惹かれて(前にもそんなことがあった)、幸田露伴初読み。 粋を解する人物とみた。釣り、骨董、魔法(まじない・神がかり的なもの)など、大変に詳しくしかも軽妙に書き綴る。蘊蓄を大い…

家族八景

【家族八景】筒井康隆 新潮文庫 ★★★★★ 2005.9.6 七瀬三部作の一 これは恐ろしい本だ。人の心が読める主人公七瀬が、住み込み使用人としてさまざまな家庭に仕えていくという連作短篇集なのだが、氏はどうしてそこまで想像できそして書けてしまうのか(そのた…

ファウスト 第ニ部

【ファウスト 第ニ部】ヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテ 池内紀訳 集英社文庫ヘリテージシリーズ ★★★★ 2005.9.4 第一部の舞台であったドイツを離れ、今度は時空を超えたギリシアを舞台に、神話の人物や化け物など何でもござれの派手派手しい劇となる。メフ…