yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

2007-01-01から1年間の記事一覧

縛られたプロメーテウス

【縛られたプロメーテウス】アイスキュロス 呉茂一訳 岩波文庫 ★★★ 2007.12.20 絶対者のゼウスの命により、プロメーテウスが兄貴分のヘーパイストスの手によって岩山に縛られる。その相関やヘーパイストスの逡巡が描かれる前半は、悲劇的には、言ってみれば…

人面瘡

【人面瘡】横溝正史 角川文庫 ★★★ 2007.12.15 金田一耕助ファイルシリーズ6 表題作よりは、「睡れる花嫁」や「湖泥」の凄惨絵図が良かった。それよりも好きなのは、導入にしばしば置かれる村落の暗澹の叙景。金田一耕助もののほとんどで書かれるが、言葉を変…

富士日記(中)

【富士日記(中)】武田百合子 中公文庫 ★★★ 2007.12.9 第17回田村俊子賞受賞作 長い日記を読んでいると、読んでいるこちらの当の季節が、日記の中の季節を追い越すことがある。今回は、三度追い越した。何を急いでいるのか、といった気持ちにもなる。 訃報…

贈る物語 Wonder

【贈る物語 Wonder すこしふしぎの驚きをあなたに】瀬名秀明編 光文社文庫 ★★★★ 2007.12.7 粒よりのアンソロジィだった。一度にこれだけの物語を、それも全てお薦めの物語を贈ることができるのは、編者としての一番の冥利だろう。 「夏の葬列」。心臓に消え…

異国の女に捧げる散文

【異国の女(ひと)に捧げる散文】ジュリアン・グラック 天沢退二郎訳 黒田アキ・絵 思潮社 ★★★★ 2007.12.1 本屋で時々見とめて、一、二篇をそっと盗み読みすること繰り返していたが、遂に買ってしまった。何故というと、ある友人に以前これを買った顛末を実…

スタア・バーへ、ようこそ

【スタア・バーへ、ようこそ】岸久 文春文庫PLUS ★★★ 2007.11.26 謙虚な成功者の話は耳に優しい(目か)。 食べ物屋に今でも憧れがあって、昔から定食屋なんかになって(名物はかつ丼が望ましい)タクシーの運転手に通われたりしてみたいもんだと思っていた…

クレオパトラの夢

【クレオパトラの夢】恩田陸 双葉文庫 ★★★★ 2007.11.21 神崎恵弥シリーズ(?) 最後にもってくる謎が、やや弱く感じられてしまうのはシリーズ前作同様。その原因というか、反面に引き立っているのは、何といっても中盤のまだどの方向にでも物語が転んでいき…

ペルシャ猫の謎

【ペルシャ猫の謎】有栖川有栖 講談社文庫 ★★★ 2007.11.17 国名シリーズ 何だかとても久しぶりに有栖川有栖作品を手に取る。職場に、本格や新本格という言葉を知っている上司がいたので、その影響は少しはあると思う。 「赤い帽子」。警察捜査の実際は知らな…

ソラリスの陽のもとに

【ソラリスの陽のもとに】スタニスワフ・レム 飯田規和訳 ハヤカワ文庫 ★★★★ 2007.11.11 科学的な粗(あら)はどうしても目に付いてしまうけれど、書かれた時代のせいも一つにはあるし、それに大きな謎をぐいと見せられれば関係がなくなる。そして大きな謎は…

パルタイ

【パルタイ】倉橋由美子 新潮文庫 ★★★ 2007.11.8 氏の初期の小説には、私の他に、L、P、Q、Sなどが出てくるが、だいぶ素性がつかめてきた。Pは男性性、Lは女性性、Sは反体制、Qは……彼はよく分からない。「スミヤキストQの冒険」まで追ってみたらもう少し肉付…

太郎坊 他三篇

【太郎坊 他三篇】幸田露伴 岩波文庫 ★★★★ 2007.11.4 表題の一篇が抜群に良かった。おだやかな暮らしの描写。一方で、どのように現在に至っていようと、人それぞれそこまでの過去がある。ここで開陳される主人の過去は、おそらく細君を気遣って敢えて言わず…

続・垂里冴子のお見合いと推理

【続・垂里冴子のお見合いと推理】山口雅也 講談社文庫 ★★★★ 2007.10.31 おきらくなミステリで、前作同様、とにかくするする読める。毎度破談になるところにも、登場人物それぞれが自覚的で、ふとしたタイミングでその不思議なり原因を考察してくれている段…

薔薇の葬儀

【薔薇の葬儀】アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ 田中義廣訳 白水Uブックス ★★★★ 2007.10.27 残酷成分も多いが、エロスが特に豊穣。久々に当たりの幻想譚で、七篇全て堪能した。 同版元より多数の作品が出ているようなので、是非ともさらに深入りして…

少年少女

【少年少女】アナトール・フランス 三好達治訳 岩波文庫 ★★★ 2007.10.27 一生懸命読むような話でもなさそうだし、それに一気に読むような本でもなさそうなので、ぽつぽつと読んで偶々この日に読みきったわけだが。淡白。あまりにも書くことがないので、今日…

神曲 地獄篇

【神曲 地獄篇】ダンテ・アリギエーリ 寿岳文章訳 集英社文庫ヘリテージシリーズ ★★★★ 2007.10.8 あちこちで引き合いに出される地獄の構造、キリスト教における罪の軽重について勉強になる。 多層構造の地獄に墜とされた有名人は、政敵(意外にダンテの時代…

フリーズする脳

【フリーズする脳 思考が止まる、言葉に詰まる】築山節 生活人新書 ★★★ 2007.10.19 本書のタイトルのように、全く頭がフリーズすること度々なので、何か解決策はないものかと手にとってみた。 要点は、マルチに脳を活動させなさい、脳に多方面から刺激を与え…

青い蛇

【青い蛇 十六の不気味な物語】トーマス・オーウェン 加藤尚宏訳 創元推理文庫 ★★★★ 2007.10.21 対となるもう一冊に比べて、もう少し恐くて、動物性脂肪を思わせる嫌な粘り気をまとう。導入で常に集中力を要求してくるが、そこを読み超えると、感心させられ…

身心快楽

【身心快楽(しんじんけらく) 武田泰淳随筆選】武田泰淳 川西政明編 講談社文芸文庫 ★★★★ 2007.10.8 中国、戦争、仏道。この辺りが、泰淳のキーワードらしい。そろそろ「富士」に取りかかれる頃合と感じる。少なくとも「死靈」はその先にある。 悩んで、考…

むずかしい愛

【むずかしい愛】イタロ・カルヴィーノ 和田忠彦訳 岩波文庫 ★★★ 2007.10.8 川上弘美がカルヴィーノの「柔かい月」を(この本の中で)推していたのを覚えていて、いつか読もうと思っていたところに、カルヴィーノの別の作品が先に見つかったので、まずはこち…

にごりえ・たけくらべ

【にごりえ・たけくらべ】樋口一葉 岩波文庫 ★★★★ 2007.9.29 姓が共通する、ただそれだけで昔から気になっていた氏だったが、どうにも雅な(?)文章が高いハードルとなって、なかなかいざ読む決心がつかずにいた。この決心をつかせた切欠は、先頃、私が既に…

世界悪女物語

【世界悪女物語】澁澤龍彦 河出文庫 ★★★ 2007.9.16 ルクレチア・ボルジアを一人目の悪女として採り上げており、偶々ジュサブロー氏作の彼女の人形(の写真)が強く印象付けられたばかりと実にタイムリーに目に留まって、奪うように手に取り、読ませてもらっ…

奥様はネットワーカ

【奥様はネットワーカ Wife at Network】森博嗣 コジマケン・イラスト メディア・ファクトリー ★★★ 2007.9.10 大したストーリィではないけれど、さっと読めて気分が良かったのでやや甘め評価。意外にホラー。帯の本文引用は少々まずい箇所を引用したのでは。…

働くということ

【働くということ 実社会との出会い】黒井千次 講談社現代新書 ★★★ 2007.9.6 黒井千次には「音」という短篇があり、そのたった一篇の作品を通じて私的には実に好ましい印象を抱いている(しかし「星からの一通話」はいまいちだったな……)。そのこともあり、…

尾崎翠

【尾崎翠】群ようこ 文春新書 ★★★ 2007.9.2 こちらも引用ばかり。しかし事物の紹介と異なり、小説の紹介は、特にそれを読もうと心密かに思っている場合には、気持ちの良いものではなくて、「尾崎翠集成(下)」を読んでから、これを読むのが良かった、という…

胡桃の中の世界

【胡桃の中の世界】澁澤龍彦 河出文庫 ★★★★ 2007.9.2 最初は引用ばかりのスタンスが煙たかったが、慣れてくると、物好きな人から博物館行きを誘ってもらえたようなもので、次々と紹介される知らない時代の知らない事物の諸々を、もうけものだとばかりに珍し…

人形曼陀羅

【人形曼陀羅 自伝随想】辻村ジュサブロー 中公文庫 ★★★ 2007.8.25 絶版 講談社文庫の赤江瀑作品を探すようになってから、表紙の人形製作者としてその名前を頻繁に目にするようになった氏のエッセイを発見したので、買い、読んでみた。 平易なエッセイ。私も…

赤毛のレドメイン家

【赤毛のレドメイン家】イーデン・フィルポッツ 宇野利泰訳 創元推理文庫 ★★★★ 2007.8.19 確かにトリックは、今読むと小粒。しかし全体の円みが美しく、ささくれたところがない。人間的なマーク・ブレンドンに寄せるピーター・ガンズの目が、意外にも温かく…

スカイ・クロラ

【スカイ・クロラ The Sky Crawlers】森博嗣 中公文庫 ★★★★ 2007.8.14 スカイ・クロラシリーズ 絵が浮かぶ小説。装幀の妙も目に付いたものだけれど、中身も相応に視覚的だ(本当はコンテンツが先んじ、外皮は後から作られる)。 語られないことが多くて、謎…

グランド・ミステリー(下)

【グランド・ミステリー(下)】奥泉光 角川文庫 ★★★ 2007.8.10 上巻読了後、1ヶ月以上経って下巻読了、しかも星評価も普通(3個分)ということで、当時相当苦労して読み終えたはず。 また面白そうなところをかいつまんで読み返してみた。梶木と彦坂の会話、…

尾崎翠集成(上)

【尾崎翠集成(上)】尾崎翠 中野翠編 ちくま文庫 ★★★★ 2007.6.18 氏は何者か。とにかく新しさがけざやぐ。例えば、くびまきはカンガルーで、耳鳴りはかいつぶりであるとも言えよう。これは下巻もじっくり探すことに決めた。 131頁の詩と、250頁の螺旋形の溜…