yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

2006-01-01から1年間の記事一覧

田紳有楽 空気頭

【田紳有楽 空気頭】藤枝静男 講談社文芸文庫 ★★★ 2006.12.17 「田紳有楽」で第12回谷崎潤一郎賞受賞、「空気頭」で第18回芸術選奨受賞 二篇を収める。一篇目は、金魚とぐい呑みが懇ろ(ねんごろ)になる話で、二篇目は、糞尿を原料に性慾亢進剤を作る話、と…

椰子・椰子

【椰子・椰子】川上弘美 山口マオ・絵 新潮文庫 ★★★★ 2006.12.9 うそ満載の日記もどき。こういう毒にはならぬがたまに薬になるかもしれないような日記を書けると良いなと思う。 夢の刈り入れは一日一回くらいでチャンスが回ってくるものの、集めてこの程度の…

新・本格推理04 赤い館の怪人物

【新・本格推理04 赤い館の怪人物】二階堂黎人編 光文社文庫 ★★★ 2006.11.20 今回は残念ながら不作の感が否めない。 中では一篇目が良く、気持ち悪いほどに何もかもが収斂していくストーリィ運びが見事だった。 最終篇は雰囲気は良いが、「……だが。」で終…

ノヴァーリスの引用

【ノヴァーリスの引用】奥泉光 集英社文庫 ★★★ 2006.11.8 第15回野間文芸新人賞&瞠目反・文学賞受賞作 畏まった文体は好きなんだけれども、この作品も肩透かし感を食らってしまった。detectiveがあれば、直球のカタルシスを期待してしまうではないか。これを…

テロリストのパラソル

【テロリストのパラソル】藤原伊織 講談社文庫 ★★★ 2006.11.4 第41回江戸川乱歩賞・第114回直木賞受賞作 爆弾テロだけがテロではない。が、テロは唐突に――言わば爆発的に起こるもので、最もテロらしいテロかと思われる。週末の公園に、その対極たる爆発を持…

眼球譚 〔初稿〕

【眼球譚 〔初稿〕】G・バタイユ 河出文庫 ★★★ 2006.10.17 球体幻想を僅かに知った。そして、球体――卵(卵黄)、眼球、睾丸など――を陰の中へ入れるというイメージ(映像)……。とりわけ眼球の場合は、グロテスクだ。こんな想像はしたことがなかったし、自分で…

アムステルダム

【アムステルダム】イアン・マキューアン 小山太一訳 新潮文庫 ★★★ 2006.10.15 1998年ブッカー賞受賞作 久しぶりにシリアスな小説を読んだ気がしたが、友人に言わせると、この作品はマキューアンにしては、まだまだ厳しさが抑えてあるとのこと。 クライブの…

老人のための残酷童話

【老人のための残酷童話】倉橋由美子 講談社文庫 ★★★ 2006.9.30 老人には酷な童話ばかり。でもそう思えるのは、まだまだ若い証拠で、実際に老人の身になって読んでみれば、このブラックユーモアも、ブラックではなく当然の感覚となり、本書に登場する数々の…

Zの悲劇

【Zの悲劇】エラリー・クイーン 鮎川信夫訳 創元推理文庫 ★★★ 2006.10.1 悲劇四部作 クライマックスになると加速するのが、この悲劇連作のようだ。解決の兆しもない中盤までは、冗長に思えるほどにじりじりとじらされたが、20章から最後までは一気読み。論理…

垂里冴子のお見合いと推理

【垂里冴子のお見合いと推理】山口雅也 講談社文庫 ★★★ 2006.8.21 垂里冴子シリーズ キャラクタで押してくるので、ものすごい勢いで読めた。そしてやっぱりピンクベラドンナと同じく破天荒な者――空美が配されているし、物語世界に妙なルールというか大いなる…

小説 NSX

【小説 NSX】本田技研工業㈱(?) ★★★ 2006.9.3 非売品 本田の販売店を巡っているときに、この文庫の形をした販売促進アイテム(?)を見つけたので、店員に言ってもらってきた。調べてみると、テキストはウェブ上でも読めるようだ。 車に大して知識のない…

夢・出逢い・魔性

【夢・出逢い・魔性 You May Die in My Show】森博嗣 講談社文庫 ★★★ 2006.8.27 Vシリーズ 一瞬の場面や台詞、地の文のコメントに、もうわずかにしか認められないけれども、切っ先鋭い煌きがある。それがストーリィ全体としては退屈なシリーズだけれども読…

熊を放つ(上)

【熊を放つ (上)】ジョン・アーヴィング 村上春樹訳 中公文庫 ★★★ 2006.7.26 処女長編 まだ上巻だけだが、これまで読んだアーヴィング作品の中で、最も読みにくく、展開も遅い印象。下巻で加速するかどうか。 *** とだけ書くと、なんだかそっけないので…

テーバイ攻めの七将

【テーバイ攻めの七将】アイスキュロス 高津春繁訳 岩波文庫 ★★★ 2006.8.18 オイディプスの息子の悲劇。それにしても、オイディプスは、悲劇の生る木のようだ。 テーバイが攻められるのだが、七つの門から、七人の将が攻めてくる。それぞれに合ったテーバイ…

倉橋由美子の怪奇掌篇

【倉橋由美子の怪奇掌篇】倉橋由美子 新潮文庫 ★★★ 2006.8.17 ギリシア神話や中国古典が引き合いに出される話が、予想通り幾つかあって、「よもつひらさか往還」以後常々まとわり付く既読感を何度か感じながら読んだ。それでも今回の掌篇も相変わらず乾いた…

リセット

【リセット】北村薫 新潮文庫 ★★★★ 2006.8.16 《時と人》三部作の三 偶々(たまたま)手にしたのが所謂終戦記念日だった。タイトルから戦争の話が出てくるとは予想外だったし、靖国という言葉も出てきて、幾らかタイムリー。 都合の良い“リセット”の意味で物…

伝奇集

【伝奇集】J.L.ボルヘス 鼓直訳 岩波文庫 ★★★ 2006.8.12 南米はアルゼンチンの作家。独特の世界を書く人とかで、随分前から気になっていたので読んでみた。装画が怪しくて良い。 全体に難解だが、半分はうそばなしだと思えば、気楽に楽しめる。たくさん挙げ…

遊覧日記

【遊覧日記】武田百合子 写真 武田花 ちくま文庫 ★★★★ 2006.7.15 良いが、日記とするには少し水分が多い。今回の作品は、氏の修辞や感性よりも、時代の記録物として読むほうが楽しめるような気がする。写真もそのようにして見させていただいた。そういったわ…

取経譚

【取経譚】天沢退二郎 山梨シルクセンター出版部 ★★★ 2006.4.15 普及版 絶版 ISBN不明 古書の街で1000円で入手した一冊。ここを見たり日本の古本屋で調べると、値段的には良い買い物をしたようだ。 大分前に読んだので、もうあまり覚えていない。ただとにか…

ウィタ・セクスアリス

【ウィタ・セクスアリス】森鴎外 岩波文庫 ★★★ 2006.6.24 世紀が変わった今読んでみると、それこそもう何を書いているのか掬(すく)い切れないくらい慎ましく書かれている(「O嬢」の慎ましさは、心理描写におけるもので、先立つ事実ははっきりと書く)けれ…

O嬢の物語

【O嬢の物語】ポーリーヌ・レアージュ 澁澤龍彦訳 河出文庫 ★★★ 2006.6.15 1955年Le Prix des Deux Magots受賞作 「家畜人ヤプー」に出てくるポーリーンの名は、この著者名から採ったのだろうとの睨(にら)みがあって、一応押さえておきたく読んでみた。 内…

過ぎ行く風はみどり色

【過ぎ行く風はみどり色】倉知淳 創元推理文庫 ★★★★ 2006.5.8 猫丸先輩シリーズ ちょうど五月の話を五月に読むことになった。それに今年のGWは良く晴れて、新緑も鮮やか。まあ、みどりというよりは黄みどり色くらいの風の時期であった。 「占い師はお昼寝中…

第三の男

【第三の男】グレアム・グリーン 小津次郎訳 ハヤカワepi文庫 ★★★ 2006.5.17 1945年から1955年にかけてのアメリカ・ソ連・フランス・イギリスによる維納(ウィーン)の分割的統治の状況と関連付けてか、ストーリィ展開もレトリックも断片的。見通しの悪い曇…

暗室

【暗室】吉行淳之介 講談社文芸文庫 ★★★★ 2006.3.15 第6回谷崎潤一郎賞受賞作 吉行氏初読み。川上弘美氏が氏の作品全般を推していたので、読もうと思っていた。 卒業旅行の帰りの機内――そろそろ日本食が恋しくなってきたな、という頃合に読んだのだが、いき…

占い師はお昼寝中

【占い師はお昼寝中】倉知淳 創元推理文庫 ★★★ 2006.3.31 感想を書かずにずっとほっぽらかしていたので、内容をほとんど忘れてしまった。 入寮日の前日にわざと現地に着いて、ぶらぶら観光して(この日は、大阪城見学後、天王寺まで散歩したりしていた)、長…

新・本格推理05 九つの署名

【新・本格推理05 九つの署名】二階堂黎人編 光文社文庫 ★★★ 2006.5.1 「04」を読んでいなかったのに、間違ってこの「05」を読んでしまった。 編集長に推されている高橋氏の作品だが、確かに設定は奇抜でかつ凝っていて面白いのだけれど、いかんせん文…

冬のオペラ

【冬のオペラ】北村薫 中公文庫 ★★★★ 2006.2.27 連作短篇集が好きだ。表題作も含まれているけれど、三篇で「三幕の悲劇」的な構成だから本全体としてもオペラ。 自分が名探偵だとわかっている巫氏。「名探偵は存在であり、意思である」とあるが、名探偵とい…

人形の家

【人形の家】イプセン 原千代海訳 岩波文庫 ★★★★ 2006.3.9 洞察力不足もあるが、クライマックスでの真のテーマが突然に、かつシリアスに浮かび上がる場面に胸をど突かれる思い。一、二幕の前振りで、何かが爆発しそうな緊張感の高まりが、何でもなく処理され…

聊斎志異(上)

【聊斎志異(上)】蒲松齢 立間祥介編訳 岩波文庫 ★★★ 2006.3.20 怪異譚の中国古典。最近読んだ「十三妹」が、偶然にも科挙の話などで、予備知識を与えてくれていた。が、それにしても、科挙絡みの話が多い。これは、あまりの試験の厳しさに、人々の意思が、…

絵のない絵本

【絵のない絵本】アンデルセン 大畑末吉訳 岩波文庫 ★★★ 2006.3.12 全33話(全33夜)中、わずか数篇だけが、初読で良い引っ掛かりを得た。全般にシリアスで、ときにアイロニカル。代名詞が多いせいか(それが、そのetc)、掌編なれども、うかうかして読むと…