yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

2007-01-01から1年間の記事一覧

黒い玉

【黒い玉】トーマス・オーウェン 加藤尚宏訳 創元推理文庫 ★★★ 2007.7.31 内と外、表と裏でも良いが、その境界線に垂れた滴の小さなしみが、間を破る。向こう側が滲んでくる。「夜が掴む」の世界だ。ばらばらの夜に一つずつ口にした、というひとかたまりの体…

アラブ飲酒詩選

【アラブ飲酒詩選】アブー・ヌワース 塙治夫編訳 岩波文庫 ★★★ 2007.7.12 酒の俗な礼讃を撒き散らす。これを読むと、今はどうだか知らないが、一千年前のイスラム圏の酒を巡る風俗が垣間見える。例えば、酒家を営むのは異教徒(イスラム教以外の意)であった…

殺人症候群

【殺人症候群】貫井徳郎 双葉文庫 ★★★★ 2007.5.17 「症候群」三部作 今作は重い。それに問うてくる。描き上げた人間関係の多面体、コアの持つ求心力に、本書のテーマである“殺人と正義”の顔を覗き込まざるを得ない。このテーマ性の重さはもちろん内容を以っ…

グランド・ミステリー(上)

【グランド・ミステリー(上)】奥泉光 角川文庫 ★★★★ 2007.7.7 2009.6.12にこの感想を書いているのだが、ぱらぱらと読み返してみても、残念ながら話の筋がさっぱり憶い出せない。 第二章の第一節に面白そうな文章があったので読み返してみた。漱石他の小説…

七瀬ふたたび

【七瀬ふたたび】筒井康隆 新潮文庫 ★★★★★ 2007.7.1 七瀬三部作の二 全篇通して駆けっぷりが、素晴らしい。一心に併走し、読み終えたら朝だった。 抉るような心理描写。筒井氏その人がテレパスである。このような作家の前に立つことこそ、大変恐ろしいことで…

金三角

【金三角】モーリス・ルブラン 石川湧訳 創元推理文庫 ★★★ 2007.6.8 アルセーヌ・リュパンシリーズ 情熱的な人々の躍動。リュパンの情熱は既読の先行作品にて知るところだけれど、今作のリュパン以前のヒーロ・ヒロインのそれも大層なもので、前半部、こちら…

地を這う虫

【地を這う虫】髙村薫 文春文庫 ★★★ 2007.6.8 律儀な人々は好きだし、あまり縁のない職に就いた者たちの話なので、どの篇もしっかり読めた。けれども話の造り込みがどうにも過ぎているような気がする。各篇の締めも何だかわざとらしい。とにかくも予定通り「…

南極点

【南極点】ローアル・アムンセン 中田修訳 朝日文庫 ★★★★ 2007.5.7 早く知ろうとすれば知ることができたいろいろなこと。犬は、人はもとより、犬の食餌にもなる。進行方向に対して長く垂直な道標は、見つけやすい。こういう付属的な、しかし練られた知恵もそ…

高瀬川

【高瀬川】平野啓一郎 講談社文庫 ★★★ 2007.5.24 それぞれ味の違う四篇。 「高瀬川」の地の文の硬質。このような文字を、そして文章を操っていたとしても、実際口から出てくる言葉は、幼い。大野氏自身はその辺り、どう折り合いをつけているのだろう。 「追…

渦巻ける烏の群 他三篇

【渦巻ける烏の群 他三篇】黒島伝治 岩波文庫 ★★★ 2007.5.20 豚群のユーモアは残念ながら解すことができなかった。やるせないその他の短篇が好み。 戦争を材にした後半二篇は、先般、ひめゆりの塔や平和の礎を訪ねたときのことを思い出させた。沖縄と長崎に…

夢みるピーターの七つの冒険

【夢みるピーターの七つの冒険】イアン・マキューアン 真野泰訳 中公文庫 ★★★★ 2007.5.12 子どもの頃、時間が経つのが遅かったのは、不意の一瞬一瞬に夢をみていたからではないだろうか。はっと我に返って、また時間が回り出す。この繰り返しで、やっとのや…

善人たちの夜

【善人たちの夜】天藤真 創元推理文庫 ★★★★ 2007.4.26 天藤真推理小説全集10 著者最後の長篇とのことで、リーダビリティが極まっているのだろう、苦手なとぼけ系の推理小説にしては、かなりの好感触のうちに読み終えた。 最後、状況の打破のために皆が頭を悩…

かもめのジョナサン

【かもめのジョナサン】リチャード・バック 五木寛之訳 新潮文庫 ★★★ 2007.5.4 ある人が引越しをし、残されたダンボールいっぱいの本とCDから、何冊かの本と、何枚かのCDを頂戴した。それらの中の一冊。 三つのパートからなる。パートワンはそうでもないが、…

濹東綺譚

【濹東綺譚】永井荷風 岩波文庫 ★★★ 2007.4.21 淡白なストーリィだが、挿絵の功も伴って、時代活写に見られるものあり(こういうことを書くと、全く何様のつもりなのだろうと思ってしまうけれども……)。繁華街を背にした、路地裏の微温をよく伝える。あえて…

自殺について 他四篇

【自殺について 他四篇】ショウペンハウエル 斎藤信治訳 岩波文庫 ★★★ 2007.4.15 共苦という考え方と共に、氏の名を知り、何となく気になっていたのでとにかく一冊読んでみた。 とても全部は理解できようもないが、二篇目が詩的表現多く、気に入る。 一体我…

GOTH 僕の章

【GOTH 僕の章】乙一 角川文庫 ★★★★ 2007.3.31 第3回本格ミステリ大賞受賞作 今様の犯罪小説という感じを覚えた。程よく抑制された淫靡と猟奇趣味。違うな、描写が抑制されているだけで、犯罪内容はそれほど抑制されていない。そして、「暗いところで待ち合…

屍鬼(五)

【屍鬼(五)】小野不由美 新潮文庫 ★★★★ 2007.3.31 屍鬼は、人を経由しないと屍鬼になれず(そのために人と同じ記号を共有してしまうこともあって)、人間性が残る点で徹底的な生物(?)になれないのが弱点か。そこに残る人間性と、その人間性に触れた人(…

屍鬼(四)

【屍鬼(四)】小野不由美 新潮文庫 ★★★ 2007.3.29 長く描かれる人物に何かしら情が移るのはあることだが、この長い作品にはそういう人物が何人も出てきて、しかもそういう者ほど、過酷な扱いを受け、苦渋の選択を強いられたりする。 最終巻を前に少し静かな…

モロッコ革の本

【モロッコ革の本】栃折久美子 集英社文庫 ★★★★★ 2007.3.21 絶版 ルリユールを学びに渡欧したときの留学記。著者はブックデザイナーとして知られるが、書く方も素晴らしい。“も”というのは、正確ではなく、結局氏は、ブックデザインと物書きの両方を主として…

屍鬼(三)

【屍鬼(三)】小野不由美 新潮文庫 ★★★★ 2007.3.24 やはり転回があった。今まで書かれなかったものが、読者の目と、幾人かの登場人物の目にさらされた。死者の連続で、閉塞に突き進んでいた世界が、また同じくらい、あるいはそれ以上になる謎を以って、帰っ…

屍鬼(二)

【屍鬼(二)】小野不由美 新潮文庫 ★★★★ 2007.3.17 大きくてゆっくりとした変化を書くには、まずは変化前の全体をしっかりと書き上げなければならないし、変化自体も決して急ぐことなく自制を以って、変化するところしないところ、次に変化するところしない…

チェスへの招待

【チェスへの招待】ジェローム・モフラ 成相恭二/小倉尚子訳 白水社文庫クセジュ ★★★ 2007.3.11 そんなことで好きだといえるのか分からないが、そういえば自分がチェスを好きだったな、と時々思い出すことがある。本書を見つけたときも、そういえば、と思い…

屍鬼(一)

【屍鬼(一)】小野不由美 新潮文庫 ★★★★ 2007.3.11 さまざまな人が現れ、描かれ、早速のように、この巻の後半から死に塗れていく。まるで殺されるために配された駒のようで、読み進むのが大変恐ろしい内容。このところ晴れない私の住む土地。現実も小説も暗…

大学の話をしましょうか 最高学府のデバイスとポテンシャル

【大学の話をしましょうか 最高学府のデバイスとポテンシャル】森博嗣 中公新書ラクレ ★★ 2007.3.11 著者の日記やエッセイをあちこちで読んでいたために、新しい話ばかりとはいかなかった。 「夢」からはじめよう、の項と、アカデミズムとは何なのでしょう?…

ポオ小説全集2

【ポオ小説全集2】エドガー・アラン・ポオ 大西尹明他訳 創元推理文庫 ★★★★ 2007.2.17 冒険譚の長中の二篇がメイン。どちらも終わりが半端で物足りない感じがしたが、仕方ないかなとも思う。冒険が光るのはその只中であるから(ここに沢木耕太郎「深夜特急…

巷説百物語

【巷説百物語】京極夏彦 角川文庫 ★★★★ 2007.2.26 巷説百物語シリーズ 京極夏彦は、脳内で作品の形が既に見えていて、木彫り師が原木から仏を切り出すように、白紙の中にある作品を活字で掘り起こしていく内に作品ができてしまうらしい(勝手な噂ですが)。…

熊を放つ (下)

【熊を放つ (下)】ジョン・アーヴィング 村上春樹訳 中公文庫 ★★★ 2006.8.12 処女長編 もう半年も前に読んだのだけれど、感想を書くのをほっぽらかしていた。本書を本棚に仕舞うために無理矢理何か書いておく。 「納屋を焼く」という村上春樹氏の作品があ…

ブックデザイン 復刻版

【ブックデザイン 復刻版】ワークスコーポレーション ★★★★ 2007.2.21 ブックデザインに関する雑誌。隅から隅まで読んだ。これを読んでいる頃から、本を検め方が、ずっと丁寧になったように思う。 装画を気にし出したのは、ミステリを集中的に読み出した頃の…

アンティゴネー

【アンティゴネー】ソポクレース 呉茂一訳 岩波文庫 ★★★ 2007.2.18 「コロノスのオイディプス」を読んでから読もうと目論んでいたが、いつまでたっても見つけられなかったので、手をつけてしまった。 クレオンの頑なさを揶揄する周囲の言葉が、身に痛い。特…

サマー・アポカリプス

【サマー・アポカリプス】笠井潔 創元推理文庫 ★★★★★ 2007.1.4 矢吹駈シリーズ 小説である必要のないくらいの情報が詰め込まれている(少なくとも学術書が書けるだけの知と取材のバックボーンがありありと感じられる)。それに著者の思想上の試みと、ミステ…