yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

御手洗潔の挨拶

御手洗潔の挨拶】島田荘司 講談社文庫 ★★★★ 2005.7.21 御手洗潔シリーズ

 

 ぞんざいな素振りはあるけれど、どことなく理知的で落ち着きのある御手洗潔。あまり個性的ではないのに、私は妙に惹かれ、不思議に思っていたら、巻末の島田氏本人から御手洗潔の言動についての解説のような小文を読んで、納得したことだった(謎の原因は、口調と物腰の志にあったのだ)。物書きの思考というのは、実に徹底している。

 もう一つ惹かれる点(こちらはずっと分かり易い)があって、それは過去(の事件)を引きずっていることである。例えば一篇目の「数字錠」の事件以来、御手洗とワトソン役の石岡はコーヒーを呑まなくなる。引きずるというのは書き方が悪いが、生は連続的で累積的なものであり、過去が今に影響するのは当然のことだ。漂う過去の気配の分だけ彼らの生をリアルに感じることが出来る。妙絶の筆技。