yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

ことばの食卓

【ことばの食卓】武田百合子 ちくま文庫 ★★★★ 2005.9.26

 

 武田百合子さん(さん付けは「日日雑記」解説の影響)の日記でないエッセイ。

 扉の一篇「枇杷」は、まさに完成し切った一篇だと思う。あまりにも完成し切っているので、次の一篇への取り掛かり方が見つからず(円環だ、次に繋がる延長線が見つからない)、「枇杷」ばかり何度も読まざるを得なかった。あまりノスタルジックで懐古的な文章ばかりを読み重ねるのは毒で、実生活での出足が鈍ってしまう、と普段そう思っているけれども、ここまで純化されたものならば、悪酔いすることもないかと言い訳しておく。

 次点で「誠実亭」。なんとなく、いや確かにつげの自叙伝風の作品に似る。生活を切り取って書く/描く場合、生活の始まりと終わりはその文章の外(そと)にあるから、その文章には始まりも終わりも書かれない。その始まりも終わりもない文章の当たり前な顔付きが良かった。