【鬼流殺生祭】貫井徳郎 講談社文庫 ★★★★ 2005.4.12 明詞シリーズ
警察や公安を主人公としない、しかも時代物という貫井作品だったので、新しさを感じたが、時代物ならではの雰囲気の造り込みが特に会話文に於いて弱いように思えた。もう少し背筋の真っ直ぐ感が欲しかった。また、朱芳の思考・言動が現代的に過ぎる。如何にもファンの付きそうなキャラクタだが、時代が合わないような気がする。架空の時代“明詞”のことだから言っても仕方がないが。
ミステリ的には佳品で、2つの密室の対照性が絵的にきれいで(詩美性があって)印象に残る。「オリエント急行殺人事件」と同じトリックが出てきたときには、少し幻滅したが、その後から一気に畳み掛けてくるトリックと明かされる多重の真相の勢いに呑まれて、読後は好感の持てる作品となった。
シリーズはこれから段段と端正なものから外れていくとかで、どんな大技が飛び出すか期待したい。