【伝奇集】J.L.ボルヘス 鼓直訳 岩波文庫 ★★★ 2006.8.12
南米はアルゼンチンの作家。独特の世界を書く人とかで、随分前から気になっていたので読んでみた。装画が怪しくて良い。
全体に難解だが、半分はうそばなしだと思えば、気楽に楽しめる。たくさん挙げてしまうと、「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」、「バビロニアのくじ」、「バベルの図書館」、「記憶の人、フネス」、「死とコンパス」が良かった。
まず前から順の3篇は、SF的な作品。うそのマッチ棒で、慎重かつ大胆に虚構の櫓(やぐら)を組み上げる。櫓の中から見れば、真剣な哲学が木芯の一本一本に満ちているけれども、我々のいる外の世界から見ると、素敵な役の立たなさに顔筋が緩む。
「記憶の人、フネス」は、極限の記憶力の姿を示してくれる。それは、「バビロニアのくじ」と同様に、円環もしくは合わせ鏡的無限につながる。つまり、くじのためのくじ、くじのためのくじのためのくじ、というものが示されたように、記憶を回想した記憶、記憶を回想した記憶を回想した記憶……。全てを物せば、「バビロニアの図書館」ができるだろう。
「死とコンパス」は、ミステリ。法月綸太郎「パズル崩壊」と同様の癖を持つ。そこはかとなくハードボイルド。