yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

平面いぬ。

【平面いぬ。】乙一 集英社文庫 ★★★★ 2005.6.5

 

 「石ノ目」が断トツに良かった。テーマ的には一種のメドゥーサ譚であるが、使い古された感を感じさせない、演出の上手さが確かにある。石ノ目に背を向けながらの食事、石像の素材たる人間の表情を理想の形に近付けていく石ノ目の挙措……。そして、クライマックスに隠された悲劇性の大。主演の二人の関係が後日譚により読者に解かれた後で、「さあ、目をお開けなさい!」という台詞と、抵抗して必死に目をつぶりながら相手の眼前に差し出されたコンパクトという構図がどういう意味を孕んでいたのか、嫌でも分かるだろう。古典まがいの見事な悲劇だった。

 後半の数篇は直接寓話的で「石ノ目」と比すと劣ったが、中篇に近いこともあって、ストーリィテリングが丁寧だという印象。また、全篇人称による性別判断が曖昧なところが特徴的。氏は青色に何か思い入れがあるように思える。