【毒入りチョコレート事件】アントニイ・バークリー 高橋泰邦訳 創元推理文庫 ★★★ 2005.4.21
一つの事件に対して、六人が六通り(正確には七通りか)の解釈を開陳するという離れ業で有名なミステリ。読み物としての評価は、どうしても無理な展開を強いられているところがあることは否めないので、難があるが、こういった奇抜な設定の着想に見事に一冊に書き上げた力そのものに畏敬の念が堪えない。自律的な小説ではないかもしれないが、自律的な文芸ではあるだろう。
地の文で捜査がほとんど記述されず、ほぼ全て会話文でストーリィが進むミステリに初めて触れた。
ワイルドマン卿を除けば、「犯罪研究会」の面々は皆喋ることが仕事ではないのに、何故か政治家のように雄弁かつ煽情的であるのは、微笑ましい。チタウィック氏にはもう少し無個性を強調させ、他の人物との差異を付けて欲しかったかな。