【家族八景】筒井康隆 新潮文庫 ★★★★★ 2005.9.6 七瀬三部作の一
これは恐ろしい本だ。人の心が読める主人公七瀬が、住み込み使用人としてさまざまな家庭に仕えていくという連作短篇集なのだが、氏はどうしてそこまで想像できそして書けてしまうのか(そのためにはどれほどの覚悟・冷徹さがあれば良いのか)、黒く苦い人間心理を、しかもバリエーション豊富に炙り(あぶり)出してくれてしまっている。気付けば、自身も眉を顰めながらも、七瀬が読んだ心を盗み見、目を反らせなくなっていた。
連続する強烈な経験によって七瀬自身も変わらざるを得ないわけだが、読心能力の自問や理解のためのアプローチとそのフィードバックの手法が理系的で、きれいだ。ただ、その年齢以上に大人び、計算されずにはおけない言動が哀しい。続編では、何と言うか安直な願いではあるけれど、七瀬に幸せになって欲しく思う。