【富士日記 （上）】武田百合子 中公文庫 ★★★★ 2005.8.2 第17回田村俊子賞受賞作
リズム＆演歌を聴くようになって此の方の私は、生活について考え過ぎる嫌いがあると思う。このような人間が、日記文学でも読んで――大袈裟に言えば――生活の勘を少しでも取り戻そうとするために、今この時期に読んでみた。
上巻は昭和39年7月から41年9月までを収める。恬然とした富士山麓での暮らしの中にも、ぽつぽつと、本当にぽつぽつとだけ、喜怒哀楽のスパークする瞬間があって、そういった日の日記にはもちろんぐっと引き込まれるけれども、何でもない献立やら風物の移ろいだけを記す日記も外しがたく、実に愛おしい。
登場人物が段々に決まってくるところも日記ならではだが、中でも外川氏が人物。人が良くて義理人情に篤く、ビールと祭が好きで、何だか一流の生活者だ。
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大岡昇平「成城だより」もなかなかの日記らしい。今後探してみようと思う。
