yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

闇の中のオレンジ

【闇の中のオレンジ】天沢退二郎 ブッキング ★★★★ 2005.10.9

 

 怪しい童話。子供(子供とは?)が読んだら、住む世界が悉く暗色がかって見えるようになるかもしれない。明色は原色のみだけが浮いたように残って、淡いものは目に映らなくなるだろう。

 掉尾の表題作に至る直前まで連作短篇集だと思っていたが、直後ただの短篇集だったらしいと分かる。何故そんな勘違いをしたのかというと、各篇の設定やら、雰囲気が似ていること――主人公は大体小学生で彼/彼女らの通学路や遊び場などが話の舞台になる――は勿論だが、今朝お母さんが死んだ、ぼやぼやと群れ為す雑草、湧き染み出す黒、時には登場人物など、物語上の小道具が時々、それも絶妙な時々さで重複するからである。それら物語同士をつなぐ、どうも暗いイメージをまとう小道具によるワームホールは、私にはクラインの壺の口のように思われた。飛び込むと、対面しているのとは違う裏のページの物語から滑らかに放り出される。そう、ページに沿った通読ができない。必ず彷徨する。

 闇に打ち克つ存在で最も頼もしく思えたのは、全校委員長の腕章であった。