yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

阿部一族 他二篇

【阿部一族 他二篇】森鴎外 岩波文庫 ★★★★ 2005.11.18

 

 武士ものとも言うべき三篇。情けと義、忠、生き死に、名と恥、信念の全う。そういったテーマが強烈に鏤(ちりば)められている。「興津弥五右衛門の遺書」によって、当時の殉死の正当性が描かれ、続いて「阿部一族」において殉死を許可する忠利の行為を慈悲とする考え方が披瀝される。殉死した士の後裔には、俸禄が出るというのもすごいシステムである。最も凄惨なのは、殉死を許可されなかった阿部一族の、一族最後の夜の酒宴後に四兄弟以外の自害と殺害に至る場面ではないだろうか。感情を挿まない字の文でさらりと書かれているけれども、自害した者の中には口に出来ず顔にも出せない怨恨を持って逝った者もいただろう。行間から化けて出そうだ。

 「佐橋甚五郎」については、巻末の斎藤茂吉の解説が鋭過ぎて、それに特に付け加えることはない。