【遠い山なみの光】カズオ・イシグロ 小野寺健訳 ハヤカワepi文庫 ★★★★ 2005.7.9
王立文学協会賞(英)受賞作,「女たちの遠い夏」改題
口を開けばブッカー賞としか言わない知人の勝利なのか、ブッカー賞受賞者であるカズオ・イシグロのデビュー作を読んでみた。
薄明――確かにそうかも知れない。会話や人と人の関係が大変ぼやけていて、それに空疎だ。掌で受け止めようとして、出来ない。そこには流れ落ちるような粘性はなく、無音で指間をすり抜けていく感じがある。気体的と言う程には一様でなく、また全体支配的でない。雪?
対話になっていない会話文が凄涼。先に進まないし、先に進むのを望んでいない。言うに言われぬ緊張を孕みながら、しかし激烈な変化・転換点は敢えて記述されない。
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悪魔は否定形で語る。と「バナールな現象」に書いてあったような。