yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

山田風太郎ミステリー傑作選② 十三角関係 <名探偵篇>

山田風太郎ミステリー傑作選② 十三角関係 <名探偵篇>】山田風太郎 光文社文庫

★★★★ 2005.11.4

 

 堕胎医でちんばで名探偵の荊木歓喜(いばらぎかんき)先生の活躍9篇。気ままな酒呑みで飄々とした性格、他人様の悪の詮索を嫌い、基本的に事件に積極的にタッチしていかないという、裏町の似合う探偵である。

 その性格と時代背景が相俟って、物語は、或る一面のみを短絡的に書くと、極悪な犯人にも止むに止まれぬ事情があったのさ、憂き世だあね、サアお涙頂戴というような演歌調が強く見られた。文章に七五調が多いのも特徴。例えば「荊木歓喜、なればこそ。」「ハッシとばかりに、指さした。」「○○(人名)凝然、声もなし。」とか。頭の中で調子付けて読むと面白いと思う。

 後半になると、歓喜先生の探偵業も公的な意味合いが大きくなり、積極性が増す。

 中では収録中唯一の長篇「十三角関係」がやはり傑作であった。対角線の張り巡らされた十三角形さながらの人間関係の複雑深淵な網。それぞれの頂点に配置された人間も、きちりきちり個性的。動的で有機的な一個の探偵小説である。なんとなく、「家畜人ヤプー」の“スフィア”や、竹本健治の“閉じ箱”(「閉じ箱」所収)のようなものを連想。覗き見の悦楽。

 

***

 

 「十三角関係」本文中341頁に“キンゼイ報告”という言葉がある。「十三角関係」は昭和31年1月に書かれた。最近映画になって“キンゼイ”の名を知ったが、こんなに古い人だったとは個人的には意外。