yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

2005-01-01から1年間の記事一覧

被害者を探せ!

【被害者を探せ!】パット・マガー 中野圭二訳 創元推理文庫 ★★★ 2005.5.14 タイトル通り犯人ではなく被害者(誰が殺されたか)を探す異色な設定のミステリ。設定は確かに面白いが、作品構造は古風でああ“本格”だといった感じがする。設定とは別にもう一つ面…

夢野久作全集2

【夢野久作全集2】夢野久作 ちくま文庫 ★★ 2005.5.9 「街頭から見た新東京の裏面」 および「東京人の堕落時代」所収 全集第2巻は、氏の記者時代の関東大震災後の東京のルポタージュ。折り良く先日読んだ「ハーメルンに哭く笛」と時代が重なっていて、フィ…

ハーメルンに哭く笛

【ハーメルンに哭く笛】藤木稟 徳間文庫 ★★★★ 2005.5.3 探偵SUZAKUシリーズ2 二年半ぶりに読むシリーズ二作目。前作同様、謎やその他のエンタテイメント的要素の過剰さが圧巻。関東大震災からおよそ十年後の帝都が舞台。ネタは日本はもとより、韓国、中国、…

八雲が殺した

【八雲が殺した】赤江瀑 文春文庫 ★★★★ 2005.4.29 第12回泉鏡花文学賞受賞作 絶版 赤江瀑初読み。司修氏によるカバー絵とタイトル・著者名の書体がポップなので、ほんわかした作品集だと思ったら大間違い。寺社の密事、刀、手裏剣、七宝、怪談、和歌、三味線…

【雁】森鷗外 岩波文庫 ★★★★ 2005.4.27 人と人の間にはいつもドラマがあるのだなと考えさせられる。出会いには、出会うだけの偶然や必然のドラマがある、とは誰もが思うところだろう。一方で、出会わないということにさえも、それだけの偶然や必然のドラマが…

盤上の敵

【盤上の敵】北村薫 講談社文庫 ★★★★ 2005.4.25 心的状態が我ながら良く思える日々が続く。今ならどんなに容赦のない物語にでも耐えられるだろうと思い、やっと手を出せた一冊。 絶対悪の存在。不条理な暴力。対する正義。それだに傍から見れば絶対善ではな…

毒入りチョコレート事件

【毒入りチョコレート事件】アントニイ・バークリー 高橋泰邦訳 創元推理文庫 ★★★ 2005.4.21 一つの事件に対して、六人が六通り(正確には七通りか)の解釈を開陳するという離れ業で有名なミステリ。読み物としての評価は、どうしても無理な展開を強いられて…

時の過ぎゆくままに

【時の過ぎゆくままに】小泉喜美子 講談社文庫 ★★★★★ 2005.4.13 絶版 かつて彼女の眼前には、どう進むも自由で、まっさらで広大なエリアが広がっていた。しかし、今になって振り返ってみると、彼女の辿ってきたのはたった一本のラインでしかない。途切れそう…

鬼流殺生祭

【鬼流殺生祭】貫井徳郎 講談社文庫 ★★★★ 2005.4.12 明詞シリーズ 警察や公安を主人公としない、しかも時代物という貫井作品だったので、新しさを感じたが、時代物ならではの雰囲気の造り込みが特に会話文に於いて弱いように思えた。もう少し背筋の真っ直ぐ…

ネバーランド

【ネバーランド】恩田陸 集英社文庫 ★★★ 2005.4.5 小説とは言え、皆色々抱え込み過ぎだと思いながら読む。クライマックスまでに皆の秘密が有機的に結びついて劇的な絵解きが起こるのかと思ったら、意外にそれぞれで完結、独立した秘密であり、それぞれ一応の…

いとしい

【いとしい】川上弘美 幻冬社文庫 ★★★★ 2005.4.2 今年のはもう過ぎてしまったがエイプリルフールからの連想で、嘘ばかり書く(これは褒め言葉)氏の作品を読んでみた。長篇は初読み。 解説から拾った言葉だけれど、本のなかの生き物を造形する巧みさに心底惚…

【鴉】麻耶雄嵩 幻冬社文庫 ★★★ 2005.4.2 「バナールな現象」、「ペニス」と鴉に彩られる作品が続いたので、好機かと思い読んでみた一冊。 この村は何処にあるのだろう。筑前煮、博多人形という単語が出てくるので、九州北部辺りに設定してあるのだろうか。…

ペニス

【ペニス】津原泰水 双葉文庫 ★★★★ 2005.3.25 強烈強大な執(しゅう)を伴う妄想の世界。ぬめりある水を湛え、長い藻が幾重も絡みつく言海を掻き分け泳ぐような通読感。これが最初から最後まで続く畏怖。ゆたゆたと進むしかないので、感覚だけが暴走したよう…

日日雑記

【日日雑記】武田百合子 中公文庫 ★★★★ 2005.3.12 氏の遺作となった作品。日記もの。 ある日香典袋を今年一年分のつもりで十袋買う、などという晩年の暮らし。死を迎える覚悟というものは、親しくしていたものの死に触れ続けることで徐々に形成されていくも…

死の内幕

【死の内幕】天藤真 創元推理文庫 ★★ 2005.3.8 天藤真推理小説全集3 解説の通り、シチュエーション設定は大変面白いのだけど、登場人物が入り乱れ過ぎて後半筋が理解出来なくなった。ただそんな状態で迎えたクライマックスは、何だか妙に切迫感があって、寝…

犬が星見た ロシア旅行

【犬が星見た ロシア旅行】武田百合子 中公文庫 ★★★★ 2005.3.4 第31回読売文学賞受賞作 川上弘美が確か「あるようなないような」の中で武田氏の「富士日記」を推していたのをうけて、「富士日記」より先に新進古書店にて見つけた同氏のこの作品を読んでみる…

ベンスン殺人事件

【ベンスン殺人事件】ヴァン・ダイン 井上勇訳 創元推理文庫 ★★★★ 2005.2.27 ヴァン・ダイン処女作 心理的推理を標榜する探偵ファイロ・ヴァンスものの第一作。シリーズものの第一作だけあって、発表当時としては極めて斬新だったであろう(私的にも斬新に感…

屍蝋の街

【屍蝋の街】我孫子武丸 双葉文庫 ★★★★ 2005.2.17 「蝋」は正しくは、虫偏+臘のつくり 久しぶりに読む我孫子作品だったが、相変わらずのテンポの良さ。さっと読めたので気分が良い。が、面白さが単純に過ぎるからか、あまり書き残すべき感想が湧いてこない…

バナールな現象

【バナールな現象】奥泉光 集英社文庫 ★★★ 2005.2.15 鴉、海老、“牧彦”など偏執する対象が多く、その反芻のしつこさ、まわりくどさといったら牛の4つの胃袋を行きつ戻りつする消化液まみれの乾し草の図を思わせる。どうも自分の書く文章に似ているような気が…

笑うな

【笑うな】筒井康隆 新潮文庫 ★★★ 2005.2.7 中学生の頃、星新一を幾らか読んでいた。それ以来、本当に久し振りにショート・ショートに触れた気がする。ただしこちらはかなりブラックな味わい。落ちの切れ味も、読者を試すようなものが多く、ぼんやり読めない…

星降り山荘の殺人

【星降り山荘の殺人】倉知淳 講談社文庫 ★★★★ 2005.2.5 「壺中の天国」に大変通じるものがある作品だった。要素数がほぼ一定の集合の積をとっていくという風の犯人の絞り込み方の独特の緩やかさと丹念さ、茶化し具合の裁量の上手さ、異常心理とそれを具現さ…

戯れに恋はすまじ

【戯れに恋はすまじ】ミュッセ 進藤誠一訳 岩波文庫 ★★★★★ 2005.2.5 珍しく少し浮かれるというかそんなような気分になる出来事があったので、単純で安直な感じだけれども手が伸びてしまった一冊。タイトル中の“すまじ”というのが、“済まないだろう”という意…

屍を 他6編

【屍を 他6編】江戸川乱歩 小酒井不木 香山滋 鷲尾三郎 岡田鯱彦 島田一男 千代有三 楠田匡介 木々高太郎 水谷準 大下宇陀児 春陽文庫 ★★★ 2005.1.28 合作探偵小説シリーズ,絶版 運良くも春陽堂の広告冊子が差し込まれていたので、“合作探偵小説シリーズ”の…

山椒大夫・高瀬舟 他四編

【山椒大夫・高瀬舟 他四編】森鷗外 岩波文庫 ★★★★ 2005.1.23 森鷗外初読。鷗外のことを謳ったなかなか良い曲があるので、どんなものなのか、と思って読んでみた。漢字と妙な片仮名に直した外来語を多用する難解な文章を書く人かと思いきや、この短篇集に於…

陽気な容疑者たち

【陽気な容疑者たち】天藤真 創元推理文庫 ★★★★ 2005.1.21 天藤真推理小説全集2 タイトルの通り陽気さに溢れたミステリ。田舎の人々の詮索好きやら余所者に対する依怙地さやらを面白可笑しく描いてある。特に会話が面白い。必ずと言っていい程茶々が入って、…

闇のなかの黒い馬

【闇のなかの黒い馬】埴谷雄高 河出書房新社 ★★★★ 2005.1.18 第6回谷崎潤一郎賞受賞作 ここ数年で一番読みたかった本。小説らしいがエッセイのようでも。副題に夢についての九つの短篇とあり、そのものをそのものとしか認識出来ない白昼の罠を嫌い(?)、夢…

奇巌城

【奇巌城】モーリス・ルブラン 石川湧訳 創元推理文庫 ★★★★ 2005.1.14 アルセーヌ・リュパンシリーズ 展開の目粉しさ(めまぐるしさ)と、リュパンの一途なロマンスの対比が眩しい作品。ホームズをも凌ぐライバルの出現やフランス史上の大いなる謎を絡めると…

人譽幻談 幻の猫

【人譽幻談 幻の猫】伊藤人譽(いとうひとよ) 龜鳴屋 ★★★★ 2005.1.13 限定514部 気の利きまくった幻談八篇。聞いたことがあるようでなかった“幻談”という何とも魅力的な分類名と限定部数という触れ込みに興味を惹かれ、入手した一冊。 どの一篇をとってみて…

宮沢賢治詩集

【宮沢賢治詩集】宮沢賢治 谷川徹三編 岩波文庫 ★★ 2005.1.9 かなり取っ付きにくかった。良いと思えるフレーズは随所に見られた(特にタイトルに於いて)けれども、一篇の詩(心象スケッチ)として今後とも大事にしたいと思えるものは殆ど見つからなかった。…

月は幽咽のデバイス

【月は幽咽のデバイス The Sound Walks When the Moon Talks】森博嗣 講談社文庫 ★★★★ 2005.1.8 順に読んできたことで保呂草のポジションが大分分かってきたので、そういう読者を見越してか、今回は早早にその手の(保呂草絡み)の驚きは自粛或いはセーブし…