yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

2005-01-01から1年間の記事一覧

ファウスト 第一部

【ファウスト 第一部】ヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテ 池内紀訳 集英社文庫ヘリテージシリーズ ★★★★ 2005.8.30 かつてBSで白黒無声映画の「Faust」(F.W.Murnau監督,1926,独,かなりお薦め)を観たことがあったが、それが概ねこの第一部のストーリィ…

無窓

【無窓】白井晟一 筑摩書房 ★★★★ 2005.9.1 絶版 確か栃折久美子氏が「製本工房から―装丁ノート」集英社文庫中で言及していた、装丁・造本に理解のある建築家、白井晟一のエッセイを読んでみた。希少本なので、不本意ながら図書館所蔵のものを居座って読み切…

てのひらの闇

【てのひらの闇】藤原伊織 文春文庫 ★★★ 2005.8.27 長篇ハードボイルド。謎が次々に湧き出てくる前半は大変面白く読んだが、解決篇の後半は経済問題(金銭貸借、不動産、名義がなんだかんだ)などが事件の核に絡んでいることが分かって、それが苦手な分野だ…

ヰタ マキニカリスⅠ

【ヰタ マキニカリスⅠ】稲垣足穂 河出文庫 ★★★ 2005.8.23 絶版(∵旧装版) 異端・幻想の作家ということで気になっていた稲垣足穂を読んでみた。 一読、お月様や星、ほうきぼし、手品・魔術、神戸の街に大変なこだわりがあることが分かる。正直なところ重複し…

舞え舞え断崖

【舞え舞え断崖】赤江瀑 講談社文庫 ★★★★ 2005.8.16 絶版 日本語が流麗だなあと思う。特に表題作「舞え舞え断崖」とイントロの一篇「女形の橋」が良かった。どちらも日本語にしか不可能かと思われる、つまりここでは表音のかなと表意の漢字を上手く使っての…

つげ義春を旅する

【つげ義春を旅する】高野慎三 ちくま文庫 ★★★ 2005.8.12 写真が多いのでさっと読めた。つげ義春やその作品についてのピルグリメイジ。 こういう本はつげの作品に対する私的なイメージを、悪く言えば歪められるのであまり読みたくないが、それでもよりつげに…

ヴァージニア

【ヴァージニア】倉橋由美子 新潮文庫 ★★★★ 2005.8.9 理知的なうそばなし。先に読んだ「よもつひらさか往還」と比べると核となる部分にはどちらも理知をはっきりと感じるが、こちらは縁(へり)がすぱあと切れていて、どの話も確然と屹立している。勝手なイ…

舞姫・うたかたの記 他三篇

【舞姫・うたかたの記 他三篇】森鴎外 岩波文庫 ★★★★ 2005.8.7 森鴎外読み三冊目でそろそろ擬古文体(解説では雅文体と称されていたが、両者の差異は“われ一個人にとりては”不明)の、当初のこましゃくれたイメージの鴎外作品を選んだ。 ドイツ土産三部作は…

富士日記 (上)

【富士日記 (上)】武田百合子 中公文庫 ★★★★ 2005.8.2 第17回田村俊子賞受賞作 リズム&演歌を聴くようになって此の方の私は、生活について考え過ぎる嫌いがあると思う。このような人間が、日記文学でも読んで――大袈裟に言えば――生活の勘を少しでも取り戻…

雪が降る

【雪が降る】藤原伊織 講談社文庫 ★★★★ 2005.7.29 「よもつひらさか往還」に雪が多く出てきたことから、雪繋がりで読んでみた。 出版年と生年から計算してみると、氏が50歳になるかならないか位の時期に書かれたもののようで、年の功か全篇を通して哀歓の浮…

よもつひらさか往還

【よもつひらさか往還】倉橋由美子 講談社文庫 ★★★ 2005.7.27 倉橋由美子初読み。幻想系の連作掌編集という風。漢詩や俳句、ギリシア神話などがしばしば引用され、またほぼ全ての掌編で官能的な場面をもつ大人のうそばなし。カクテルに詳しいとより楽しめる…

回想のシャーロック・ホームズ

【回想のシャーロック・ホームズ】コナン・ドイル 阿部知二訳 創元推理文庫 ★★★★ 2005.7.25 シャーロック・ホームズもの 御手洗潔ものの持つ雰囲気がどうもシャーロック・ホームズ譚のそれに似ているような気がして、それを確かめるべくインターバルを短めに…

御手洗潔の挨拶

【御手洗潔の挨拶】島田荘司 講談社文庫 ★★★★ 2005.7.21 御手洗潔シリーズ ぞんざいな素振りはあるけれど、どことなく理知的で落ち着きのある御手洗潔。あまり個性的ではないのに、私は妙に惹かれ、不思議に思っていたら、巻末の島田氏本人から御手洗潔の言…

ifの迷宮

【ifの迷宮】柄刀一 光文社文庫 ★★★★ 2005.7.18 遺伝子テクノロジーが今よりもう少し進んだ近未来を舞台にしたミステリ。遺伝子チェックによる差別発生の問題など、かなり酷だけれどももしかしたら近い未来その通りに行く着きそうな社会や、違和感を持ち続け…

遠い山なみの光

【遠い山なみの光】カズオ・イシグロ 小野寺健訳 ハヤカワepi文庫 ★★★★ 2005.7.9 王立文学協会賞(英)受賞作,「女たちの遠い夏」改題 口を開けばブッカー賞としか言わない知人の勝利なのか、ブッカー賞受賞者であるカズオ・イシグロのデビュー作を読んでみ…

緋色の研究

【緋色の研究】コナン・ドイル 阿部知二訳 創元推理文庫 ★★★★ 2005.7.6 シャーロック・ホームズもの シャーロック・ホームズのデビュー作。二部構成になっており、前半が事件調査から犯人逮捕まで。後半に犯人の犯罪に至る過程が描かれる。という構造のこと…

シーズ ザ デイ 下

【シーズ ザ デイ 下】鈴木光司 新潮文庫 ★★★★ 2005.7.4 長篇だけあって、後半の物語の集束感、ドラマの畳み掛けが気持ち良く、メッセージ性の強いエンディングも素直に心に沁みていった。「白い嵐」という映画と少し類似するところがあって、似たような壺を…

シーズ ザ デイ 上

【シーズ ザ デイ 上】鈴木光司 新潮文庫 ★★★ 2005.7.2 ヨットを軸にした話なのだが、上巻ではあまり大きな航海はない。頻出する昔の話や分析的過ぎる船越の思考など、まだまだ物語は燻(くすぶ)っている感じ。伏線の意味ももちろんあるだろうけれど、はや…

しゃべれども しゃべれども

【しゃべれども しゃべれども】佐藤多佳子 新潮文庫 ★★★★ 2005.6.29 412頁5~6行目にかけての「新しいノート~気持ちになった」という部分がなかったら星5つかな。信頼できるある書評サイトの管理人のお薦めの本だったので読んでみたら、見事に当たり。お薦…

ヘルダーリン詩集

【ヘルダーリン詩集】川村二郎訳 岩波文庫 ★★★ 2005.6.25 基本的に自然を詠むところから始まる。が、詠む対象を見える姿そのままに、というだけでは決して留まらず、その延長を空間的にも時間的(歴史的)にも縦横に補外させていく想像力の飛翔が素晴らしい…

退職刑事2

【退職刑事2】都筑道夫 創元推理文庫 ★★ 2005.6.23 二年振りに読むシリーズ2作目。 そもそもがマンネリズムだというこの安楽椅子探偵的なシリーズを、ストイックに持続しているが、そのスタイルも遂に「四十分間の女」で幾分か破られてしまう。しかし、面…

法月綸太郎の新冒険

【法月綸太郎の新冒険】法月綸太郎 講談社文庫 ★★★ 2005.6.17 一年振りに読む法月綸太郎。(私の感覚では)中篇集と言った感じで、適度にじっくりとくる読み応え。 作品内引用の更に引用になるが、推理小説は“理屈そのものを一つの虚構としてみる精神のスポ…

伊豆の踊り子・温泉宿 他四篇

【伊豆の踊り子・温泉宿 他四篇】川端康成 岩波文庫 ★★★ 2005.6.8 川端康成初読み。意外に落ち着きがなく、散文的でいまいち読み込ませてもらえない作品が多かった。作者20歳台の作品ばかりが収められているとのこと。それ故か。 最も有名な「伊豆の踊り子」…

平面いぬ。

【平面いぬ。】乙一 集英社文庫 ★★★★ 2005.6.5 「石ノ目」が断トツに良かった。テーマ的には一種のメドゥーサ譚であるが、使い古された感を感じさせない、演出の上手さが確かにある。石ノ目に背を向けながらの食事、石像の素材たる人間の表情を理想の形に近…

リュパンの告白

【リュパンの告白】モーリス・ルブラン 井上勇訳 創元推理文庫 ★★★★ 2005.6.3 アルセーヌ・リュパンシリーズ 相変わらず軽快。忍術に近い気の効いたトリックと、笹の葉切れのようにすらりとしたロマンスが、現れては立ち消え、現れては立ち消えする。マンガ…

鹿の幻影

【鹿の幻影】紀田順一郎 創元推理文庫 ★★★ 2005.5.31 現在は「古本街の殺人」に改題 改題から分かるように、古本街神保町で起こる殺人事件。古書マニアが多数登場し、彼らの古書に対する情熱をその言動から読み取るのが面白い。私の場合、それが古書であると…

富豪刑事

【富豪刑事】筒井康隆 新潮文庫 ★★★★ 2005.5.27 「左慈仙人」を引きずり、ドタバタ繋がりから選んだ一冊。筒井氏初のミステリ作品とか。 遊びとプロットを重視して、退屈なところは容赦なく割愛。滑らかな小説ではないが、非常にテンポが良い。改行と場面の…

中国奇談集

【中国奇談集】鈴木了三訳編 現代教養文庫 ★★★★ 2005.5.26 絶版 “奇談”と装丁に惹かれて読んでみた一冊。装丁・挿絵は共に原田維夫(はらだつなお)氏。レトロかつ中国ぽい好雰囲気を演出している。 中国奇談と言えば、北村薫編「謎のギャラリー こわい部屋…

不自然な死

【不自然な死】ドロシー・L・セイヤーズ 浅羽莢子訳 創元推理文庫 ★★★ 2005.5.25 ピーター卿もの 犯人よりも犯行手段に謎の重きがあるミステリ。おそらく発表当時はかなり斬新な手段だったのだろうと思われる。今読むと少々陳腐になるが、別個のトリックも…

山椒魚・遥拝隊長 他七篇

【山椒魚・遥拝隊長 他七篇】井伏鱒二 岩波文庫 ★★★★ 2005.5.15 某氏が、井伏作品の口語はつげ義春を思わせる(時系列から言えば勿論逆の言いだけが真であり得るが)ということを言っていたのを聞き覚えていて、長らく経って手に取った一冊。 「山椒魚」さえ…