yh氏の日記

主に買った本を、メモがてら、ずらずら書いていきます。他に言葉集めなど。過去記事鋭意編集作業中。

無窓

【無窓】白井晟一 筑摩書房 ★★★★ 2005.9.1 絶版

 

 確か栃折久美子氏が「製本工房から―装丁ノート」集英社文庫中で言及していた、装丁・造本に理解のある建築家、白井晟一のエッセイを読んでみた。希少本なので、不本意ながら図書館所蔵のものを居座って読み切った。ページ数は200に満たないし、建築の話題だけでなく対象は広範の所謂“エッセイ”なので、気楽に読める。

 建築についての話題では、現代建築の思想やそこに至るための思考の手がかりを示している(ようである)原爆堂の話や寺院建築の話が興味深かった。どうしても歴史を背負わずにはいられなかろう両建築だが、その歴史/歴史的メッセージ性に安直に追従するだけの造形を良しとせず、それらをとことんに踏まえながらも、ダイナミックな次代の一歩でもって、空前の造形(アプリオリな造形)を現出させることを言っている。このことはあらゆるクリエイタへの箴言であろう。

 建築以外の話題では、めしの話や自宅に植えたしだれ桜の話や書(しょ)についての話など、老境の巌徹さとほのぼのしさが入り混じる粒揃いのエッセイであった。

 漢語遣いが多少難しい(この感想文にも少し影響してしまったようだ)。